はじめに
私がジャズにおける「スタイル」に興味を持ったのは、他でもなく、ブラッド・メルドーというピアニストの演奏に出会ってからである。
彼に出会うまで、私のジャズの練習方法といえば、好きなプロの演奏を繰り返し聴き、雰囲気を真似しながらがむしゃらに即興を行うものだった。スタイルにも特段興味はなく、巨匠たちの演奏にぼんやりと個性を感じる程度であった。
それというのも、当時の関心はひたすらビバップ1奏法に向けられていたからだ。
録音やライブで耳にするビバップの音に少しでも近づきたくて、頭の中はそのことでいっぱいだった。ゆえにスタイルにまで意識が向かなかった。
とはいえ、そうした表面的な練習を続けていくうちに、自分の演奏が無個性なスタイルに落ち着いていることに気づき始めた時期があった。「自分にしかできない演奏がしたい」——そんな思いがよぎる機会が次第に増えていった。
そしてある日、メルドーの音楽に出会ったのである。
彼の音楽は、一聴して個性の権化であると感じた。他のピアニストでは絶対に聞くことのできない斬新なアドリブの切り口は、私に強烈な衝撃を与えた。その上、彼の演奏は普遍性さえも備えていた。独特な演奏の奥には、明確にビバップの精神を感じたのである。個性とビバップを共存させたそのスタイルに、私は文字通り心酔した。
ジャズの歴史では、後に巨匠と呼ばれる革新的な人物たちが新しいスタイルを確立し、時代を牽引してきた。後続のジャズメンがそのスタイルを模倣することで、シーン全体でスタイルの深化が進み、歴史が形作られてきた。つまり、ジャズの進化には「革新」と「研究」が不可欠である。革新的な人物が新たなスタイルを示し、周囲がそれを研究するという構図だ。そして重要なのは、革命家は往々にして、同時に熱心な研究家でもあるという事実だ。研究が突き抜けると革新に昇華する。真似事に始まり、最終的に各々が自らのスタイルを確立していくという一連の流れが、ジャズにおける個人の成長、ひいてはジャズそのものの発展に寄与するのである。
私はこれを信念とし、新しいスタイルの確立方法を言語化することこそ、独自の声を持ちたいと願う人々への一助になると考え、本稿のテーマとした次第である。
- ビバップ/ビーバップ(Be-Bop):スウィング・ジャズから脱却し、複雑なリズム・ハーモニーを主体としたジャズの演奏方法の一つ ↩︎