クエスト001 “旅先で知り合った人と一緒にお酒を飲む”

クエスト001 “旅先で知り合った人と一緒にお酒を飲む”

2024年2月23日。昼過ぎ。

タイの首都バンコクのイスラム地区・サトーンというエリアのホテルに泊まっていた。
タイに到着してから、今日で6日目になる。

気温は35度。2月はタイの季節の中で「乾季」と呼ばれる時期で、比較的過ごしやすい気温だそうだ。2月の最低気温が5℃な東京から来た身からすると、そうとは信じられないくらいに暑い。

そんな気候に合わせて、日が暮れる直前16時くらいに街へ繰り出す習慣が固まってきた。これは現地で知り合ったタイ人の子も「休日はみんなそうしてるよ」と話してた。
16時くらいに街へ出て、24時を超えても賑やかな街で遊んで、日が昇る早朝頃に眠り、昼頃に起きる。
日本にいる時についなってしまう昼夜逆転の時のような罪悪感は感じなかった。
そういうライフスタイルを許容する人々の共通認識と、それによって形成された街のデザインがある感じもした。

出かける前に、クエストをまとめたノートを見返す。
“旅先で知り合った人と一緒にお酒を飲む”
これを今日やってみようかな、と思った。

このクエストのポイントは「知り合った人と飲む」ということだ。
誰でもいいから誰かと飲む、というのはダメだ。
ガールズバーとか、キャバクラ的なところとか、そういう、その時限りのホストとお客の関係性で飲む、というのは、クエストをクリアしたことにはならない。

爆音で音楽が鳴ってるフロアにて、無数の全裸の女性がお立ち台の上で踊っていて、それを見上げながら飲む。気に入った女性がいたら指名して一緒に飲むことが出来る。そういうお店から出たあたりで、そう気付く。隣にいた白人男性二人とも乾杯をした。“50人と乾杯”のクエストの数もここで稼いでおく。

ここはソイカウボーイ。東南アジア最大級の風俗街と名高いエリア。多種多様の人種が歩き、無数の風俗嬢(女性以外も)が執拗に客引きをしてくるエリアだ。

それはまあいいとして、自分は本当に、お金で恋や笑顔や体を買うって行為には夢中になれない人間なんだなと実感した。恋は一対一で向き合って興味関心を持ってコミュニケーションして、あっちにも同じように興味関心を持たせて、振り向かせていく。それが醍醐味ってもんじゃないか。会った瞬間から全裸になっていて、会話する3分ごとに「もう一杯くれ」と言ってくる、何が好きで何が嫌いかも知らない女性に、自分のハートはまだ、夢中になれることはなかった。5件くらい回って、それぞれの店で別々の女性と飲んで、よくわかった。こういう世界があることは刺激的だったけど、何一つ、誰一人、記憶に残らなかった。

ソイカウボーイ入口付近の階段に腰をかけて少し休憩する。近くに座っていた黒人の女性が話しかけてくる。話を聞くと、ケニアから来たフリーランスの風俗嬢とのことだ。彼女の名前はドードーといい、英語でマンゴーを意味するらしい。

軽く世間話をしながら、その合間に夜のお誘いを受ける。そのたびに「僕は君と友達になりたいだけでお客さんになりたくはないよ」と言い続けてた。最終的に「一回100バーツ(400円)でいいよ」と言われた。それも断っていたら「ファック」と言って彼女は去っていった。知り合いにはなれたけど、飲むことは出来なかった。


東南アジア最大の風俗街の中で、一番楽しく刺激的だった場所は、違法出店された路上のバーだった。

数分後、「僕は今まで、東京が世界で一番カオスな街だと思ってたけど、このエリアの方がカオスだよ」ということを、道端の仮設バーみたいなところで、フランス人の男の子と話して笑った。時刻は24時を過ぎている。お酒を売ることが法律で禁止されてる時間帯1)に、コンビニの前の路上に違法に出店された仮設バーで、お酒は販売提供されている。こういう、法律やルールだけを見ていたらわからない、現地のリアル、というものがある。

1)タイでは、アルコールに関する法律や規制がいくつか定められています。
*アルコールの販売時間は、法律で11時から14時、17時から24時と定められています。選挙の前日18時から当日深夜0時、重要な仏教関連の祝日など一部の祝日も販売が禁止されています。
*寺院や学校、病院、役所、ガソリンスタンド、公園などの公共の場ではお酒を飲むことができません。
*アルコール飲料の写真をSNSに投稿すると、5万バーツから50万バーツの罰金を科せられる可能性があります。
*アルコール飲料の製造者や輸入者、販売者が係官の命令に従わない場合は、1年以下の禁錮、もしくは2万バーツ以下の罰金または併科の罰則が科せられます。

フランス人の男の子は、左手にアルコール、口には大麻、右手にはラオスから出稼ぎに来た女性、という感じで、10秒に一回女性とキスしてて、かなり異国の旅をエンジョイしてる感じだった。
「僕は去年フランスに行ったけど、君みたいなフランクなフランス人に会ったことがなかったから驚いてるよ」と話した。
「人によるよ」と彼は言った。僕らはインスタグラムを交換した。一時間くらいそこにいて、五杯くらいの酒を飲み交わして、僕は帰路についた。

ノーヘルでバイクタクシーに乗って感じる風が、いつもより気持ちよく感じた。


このバーの雰囲気が好きで、タイ滞在中、何度もこのバーに行きたくて同じ時間、同じ場所に近くに行ったけど、二度とこのバーに出会えることはなかった。
東南アジア最大の風俗街の中で、一番楽しく刺激的だった場所は、違法出店された路上のバーだった。

クエスト001 “旅先で知り合った人と一緒にお酒を飲む”

クリア。


次回、
クエスト002 “一日空をできるだけ記録”
11月初旬連載予定。

Text by
松田直己

松田直己(まつだ・なおき)
ファッションデザイナー。吉祥寺在住。イスラエル/京都/静岡出身。好きな女性を振り向かせる為に独学で服作りをはじめ、総数4,000点以上の一点物を発表販売したファッションブランドnisaiを運営。毎年海外旅に出かけてる。
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