クエスト002 “一日空をできるだけ記録”
「一日空をできるだけ記録してきてよ」
このクエストには、旅先で何度も助けられた。
時間とお金と覚悟を決めて見知らぬ国々の放浪をする以上、その地域のことを、できるだけ短い時間でたくさん網羅しないともったいないような、色々予定を詰めないと損をしたような、自国ではできない特別なことをしていないと「旅に来た意味がない」ような、そんな気分にかられて、結果、なんだか移動ばかりが多くて、あくせくして、一箇所の土地をじっくり見たり、良い部分、好きな部分に出会えず、疲れと孤独感だけが溜まる。そんな落とし穴にはまりがちだった自分からすると、かなり、逆転の発想だった。
「一日」を「空を見て」「記録するだけ」の指令。
それは、言われてはじめて思い出す、本当は子どもの頃はそれだけで楽しくて、大好きな、豊かな行為だった。
タイ・バンコク滞在5日目。
昼に起床して、クエストをまとめたノートを開き、友人に書いてもらったこの指令が目に留まった時、「今日はこれだけをする日にしよう」と決めた。
窓から見える空を眺めて、ホテルのルーフトップ・プールサイドのテーブルでボーっとして空を眺めて、写真を撮って、空の手前にあるビル群を眺めて、なんだか手塚治虫原作のアニメ映画『メトロポリス』の街並みそっくりだなあと思いを馳せて、飽きたら本を読んで、また空を見て、気付いたら日が暮れていて、その移り変わりまで、見てた。これは指令だから。そう思うと、気がラクだった。
でも本当は、こういうことを許容する旅こそが、自分がしたい旅だったことに気付くことができた。
現地の料理を全部制覇しなくていい、限られた時間で現地の観光名所全部を回ろうとしなくていい、泊まってるホテルの中だけで完結する「豊かな日」があったっていい。本当は、そんなところにだって、その土地の素敵な場所はあるんだ。
ホテルの自室のバルコニーの眼の前には、墓があって、隣には寺があって、だけど日本の寺のようなおごそかなイメージではなくて、公園のようなムードで、子どもや大人が、バドミントンやスポーツに興じてる。その様子が、バルコニーから見下ろせる。寺は日が暮れるとネオンでライトアップされる。それも、日本の寺とは違う。なんだかおかしくて、面白い。
空をできるだけ眺める。記録する。一日中。
少し前の自分だったら、時間がもったいないと思ってアイデアにも浮かばなかったこんな行為だって、誰かが提案してくれた、やってみたい・やってほしいクエスト。
僕は「これ」をタイでやったあと、インドでも、エジプトでも、モロッコでも、ヨーロッパとアメリカの間に浮かぶドマイナーな離島アゾレス諸島でも、欠かさずやるようになった。
このクエストがあったおかげで、どんな状況でも、どんな場所でも、その土地土地の性格と魅力と旅情とを、ゆっくりマイペースに楽しめるようになれた。と思うほどだった。
このクエストをくれたのは、高校から十年以上の仲になる近藤さんだ。
みんなにもおすすめする。
「“一日空をできるだけ記録する”」
そんな旅の1ページを。
クエスト002 “一日空をできるだけ記録”
クリア。
次回、
クエスト003 “現地人をデートに誘ってみてください”
12月初旬掲載予定。