20~60 hzブースト世界線上のアリア

今月は別の題目について書くつもりだったのですが、運悪く低音障害型感音難聴というものに罹患しまして、折角なので罹患後の所感についてつらつらと述べていきます。ちなみに、これを書き始めたタイミングでは右耳だけ薄ら55~60 hz辺りのサブベースが発生している。何故サブベースが発生するかは本文を読めばわかる。てやんでい。

経  緯

  • 朝まで飲酒&放浪後、珍しく続いたDJ出演のために選曲中、右耳のみ低音域を聴き取れていないことに気づく。
  • 慢性鼻炎持ちなのと、特に春秋はアレルギー症状のため陸の上の魚と化し、その影響が耳管に及ぶことがしばしばあったため今回もそれと思い就寝。
  • 翌日起床すると上記では見られなかった耳の閉塞感、低音域のダブワイズ感が発生しており耳鼻科を受診、低音障害型感音難聴と診断される。

診  察

  • 朝まで飲酒&放浪後、珍しく続いたDJ出演のために選曲中、右耳のみ低音域を聴き取れていないことに気づく。

症  状

  • いわゆる耳鳴りというのは、何らかの理由で聞こえの悪くなった(もしくはそのように認識している)音域を脳が補完しようとエラーを起こしている状態らしい。低音にその症状が発生している私の場合は、現状EQで50~60 hz以下を常にブーストしている状態で生活していることになり、体感だと車のエンジン音やドアの開閉音、ノック、物音etc…に含まれる低音がすべてサブベース化して耳に侵入してくるような、さながら一億総池田亮司な音響空間に存在している感じです。
  • 特に症状が酷い時は風の音が存在感を増す。フィールドレコーディングまでいかなくとも、スマートフォンで屋外撮影した時などに、自分が認識しているよりも風の音が入り込んでいることに気づく人は少なくないと思うのだが、まさにそれぐらいの質量を持って風が入り込んでくる。フィーレコは好きだが、私がフィーレコになるのは予定していない。そこまでスピってはいません。これぐらいまでスピってみたいですけどね、一回。
  • 偏頭痛を患っていると発症しやすいそうだが、まさにそれである。しかも低音が増幅された音によって身体が強張る→頭痛が発生する→頭痛によってストレスが蓄積される→症状が悪化する→以下x数といった具合で負のループを生む、無敵のプリズムコンボである。

原  因

  • ストレス、寝不足、過労。そう、すべての諸悪の根源はストレスと寝不足と過労。円安も、中東の情勢不安も、アメリカも、9.11も3.11も、やがて皆に平等に訪れる死も、極東の頭打ちなリズム感覚も、時間が不可逆なのも、すべてはストレスと寝不足と過労が原因。しかし発症時の私は割と評判のよかったDJと煌びやかな週末の予定に胸を躍らせていた。いかに人は自分を理解できていないのか、私とは、他者とは。

経  過

  • 発症1-3日

→上記低音域のブーストに加えて、中高音域のどこかしらの周波数帯がカットされている感覚。話し声の帯域はすんなり聞こえるが声質によっては聞き取りづらいのとその際の周囲の環境音によってかなりマスキングされてしまう。鉄製の階段を登る音や、ドアの開閉音が脳内に響く。

  • 発症3-5日

→投薬によっていくぶんか症状が治まり、低音域に耳鳴りがフォーカスされる。池田亮司で言うとMatrixの音像に一番近い音が耳元でつねに鳴っている。サブベースいらず、助かる。

  • 発症5-7日

→左耳はほぼ治まり、右耳もときおり低音の耳鳴りが発生するくらいまで治る。嘘、退勤後に両耳とも薄ら低音が増幅されていることを確認。聴力は回復し、その後2回目の診察でほぼ完治と診断を受けたが、薄らとした右耳の耳鳴りは残ったまま。

対  応

  • 基本的には投薬治療。耳鳴り界隈で不味いと有名なシロップが処方されたが、渋めの梅酒的なニュアンスで悪くなかった。
  • 1-3日目は耳からの影響が酷く休みを取って常に横になっていたが、3日目から出勤。身体の動きは鈍く、頭痛が止まないが情報を集める。
  • 頭痛持ちのため元よりの部分もあるが、後頭部にかなりの凝りを感じるのでひたすら解す。
  • また嗜好品の中でも身体に悪いとされるカフェイン、アルコール類を一切摂取しないようにした。それでも煙草は無理だった。美味い、煙草。
  • 睡眠不足はやはり大きな要因となるようだ。最低でも7hの睡眠時間を確保するようにした。
  • 後半の時期はどうしようもない、というよりは、音量さえ抑えられれば支障をきたさない程度の耳鳴りとなっていたため耳栓を装着してみた。かなりのストレス軽減効果が得られた。

対応a

  • 上記はこの疾患に対する基本的な処置であり、医者からのアドバイスでも検索でもすぐに辿り着ける対処法である。4~6日の期間、ある程度耳鳴りの症状が限定され始めた段階で一つの仮定が頭に浮かんだので実行してみた(独自判断のため非推奨)。
  • 症状の項目で耳鳴りは聞こえの悪くなった帯域を脳が補完しようとしている状態(らしい)と述べたが、この説を目にした際、逆説的に脳が補完しようとしている帯域を埋めることが出来れば症状が改善するのでは無いかと思い浮かんだ。(同タイミングで耳栓を用いて効果が得られたことも大きな要因である≒耳栓で音量が抑えられたというよりは、幅広い帯域がマスキングされてることがその理由ではないかと体感ベースで想定したためである)
※上記は後日調べてみたところ似たようなアプローチとしてマスカー療法という手法が1970年代から実践されており、また、音響物理学の研究者による類似アプローチに関する論文を何点か確認することができた。
  • 例1

→室内にいる際、両耳ともに40~45 hz辺りの帯域に対する中程度の負荷が発生。42 hzのサイン波を5分程度聴取。症状が発生したのは15:00頃だったが、その後就寝した23:00まで症状が緩和された。しかし、翌日まで効果は持続しなかった。

  • 例2

→冒頭にあるように右耳のみ薄らと55~60 hz辺りの低音域の耳鳴りが発生。60 hzのサイン波を例1と同様に5分程度聴取。初回は実践後すぐに耳鳴りが解消され、就寝時間まで効果は持続した。しかし、こちらも例1同様翌日まで効果は持続しなかったことに加え、以降同様のアプローチを試みても初回程の効果は得られなかった。

結果として耳鳴りと同周波数帯の音を聴取することは、体感ベース(聴力数値の増減は無視した上での)では有効なアプローチになり得るが、5分程度の聴取の場合は回数ごとに効果が薄れていくため、より長時間の聴取、もしくは持続的な聴取が必要な可能性が浮上した。

所  感

  • 頭痛持ちにはかなりの地獄。私の場合は月に2、3日の頻度で偏頭痛に見舞われるが(鼻炎or眼精疲労or気圧が大きな原因)、症状が発生してからの7日間のうち5日間はつねに頭痛が発生していた。
  • 頭痛の原因は耳鳴り以外にもあり、特にカフェインを日常的に摂取している場合、離脱症状も相まって頭痛の発生頻度は上昇する。2回目の診察でほぼ完治の診断が下った後試しに缶コーヒーを購入してみたが、摂取後20分程度で頭痛が解消されていった。
  • 酷く寝つきの良い私の場合、耳鳴りに悩まされて寝れないということはなかったが、睡眠障害を抱えている人にってはかなり苦しいものになると思われる。苦痛の裏ドラ役満一発ツモ。南無。

考  察

  • 耳鳴りが脳のエラーによって発生する症状というのは非常に興味深い説であり、実際にこの説を元にサイン波を用いた独自の対処法を行ってみたが、ある程度の効果は得られた。また、2回目の診断でほぼ完治と医師から告げられたタイミングで薄らとしたサブベースの耳鳴りはその音量がかなり低下していった(その後再現)。
  • ここで非常に面白いのが、自身の現在の状態を上記の検証やそれを実践するまでの調査、また、この文章の作成等によってメタ認知的に捉えて、自身でもほぼ完治に至っていると認識していてもなお、医師からの診断によって症状が軽減されたという自己認識の脆さである。
  • つまり私は2回目の診察に向かう道中、もしくは診察を予約する手前の段階で8~9割方ほぼ完治しているという診断が下るものと認識していてもなお、医師の判断によって精神的な安定を得たのである。
  • この一連の流れはひどく過儀礼的であり、そして、人間がいかに神を内包できない存在であるか、という体感を得ることができた。
  • (Why I’m me)というのは形而上学の大きな議題かつ、解決不可能な問いであり、某ポップバンドが私以外私じゃないの~と煌びやかに歌い上げたのはもはや過去の話ではある。今回の経験は私が私を私として理解し、私たらしめるのは、毎秒ごとの無意識の自己認識(≒非連続性)と他者を介した通過儀礼であり、そのどちらかが欠損した時、私という輪郭が揺らいでいくということを私に改めて実感させた。
※非連続性は議題に対する解答の一つでしかない。
  • しかしていまだに私の右耳の耳鳴りは微かではあるが止まずである。一過性のものでなく、日常において連続性を有する耳鳴りが発生している時、上記にあるように私という輪郭が揺らぐ感覚を覚える。当初は常と異なる音響空間に存在することによる認識齟齬が原因かと考えたが、ここまでの持論を鑑みると、この揺らぎは私が非連続性の存在であるにも関わらず、連続性を有する耳鳴りという症状によって強制的に連続性を付与されてしまったことの弊害なのではないだろか。
  • もしくは、限りなく連続しているが瞬間ごとに断絶している不連続の私の時間性に対して、異なるが限りなく近しい時間性を有する連続性の耳鳴り(耳鳴りはその人以外には聞こえず、個別の音質/音階/音域/周波数を有する。それはつまりオートクチュールなイマジナリーサウンドとも言え、私の分身の一つと捉えられないか?)が介入することによって、私が私’と二重にブレる感覚なのかもしれない。
  • いずれにせよこの耳鳴りとそれに伴う難聴という症状は非常にユニークだ。外傷や加齢による発症はまだしも、万病の要因でもある心的作用からの発症は防ぎようがなく(現代は増加傾向にあるようだが過去には無視されていたか、もしくはイヤフォン/ヘッドフォンの常態化が一因なのかも不明)、また、その内実は症状を抱える本人にしか明確に分からないうえに、本人も明確に判断ができかねるというスキゾでパラノってる現代人になんともフィットした性質で、お見事としか言いようがないʅ(◞‿◟)ʃ
Text by
Yengo

■Yengo

多様なsampleを用いて越境的な音像( ˊ̱˂˃ˋ̱ )を生成し、あらゆる音声が(社会的規範はあれど)参照/利用可能な今日のideaを顕現させるsound( ◠‿◠ )artist

近年では、道玄坂上で磁場となっているmusic bar 渋谷Tangleの店主であり、DJとしての活動も多岐に渡るMichaelとULTRA TWOを結成( ´∀`)

個人の活動としては今秋、サウンドアート系統の新興レーベルato.archivesから1st albumをリリース予定。
加えて、多角的アプローチから音響/音楽表現の拡張を試みるinstallation、「動/静の音」シリーズの3回目を開催予定である W(`0`)W

■sounds

→2023.01 Remix 1
→2024.01 sweet sounder#1(ULTRA TWO)
→2024.01 う宙(天国?かもしれない…remix)
※for the 1st Album “In the Crack of Number,Breeze kids Stepping
by dukkha & Paul.U
→2024.03 Live(excerpt/edit)

■exhibition/events

→2023.03 「ゆるむ 間 交わる 外」「loose space mix out」
at 平山郁夫シルクロード美術館
→2023.10「動/静の音・点」at 寂静庵(鎌倉)
→2023.12「phenomenon(現象)vol.0」at 地底(大塚)
→2024.04「動/静の音・波」at みなとや(横堀海岸)

■announcements(recent)
10/18「Unaesthetic Harmony」
→ 1st album will be released from ato.archives(digital&cassette )

10/26 「動/静の音・交」at みなとや(横堀海岸)
→ Outdoor event/installation on the beach where many artists use small sounds and movements

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