大喜利クソ苦手である。マジで苦手である。全く気の利いた回答が出せない。滑る。何も浮かばず頭が真っ白になる。なので大喜利を始めることにした。
大喜利オンラインというアプリを入れた。このアプリの仕組みを説明すると、オンライン対戦で4人グループで大喜利ができる。2人ずつの2チームに分かれ、回答側と審査側を入れ替わりで2回ずつ、計4回の試合が行われる。一試合につき一題が出題され回答者チームは1分間の中でお題を考え、5回まで回答することができる。お題を回答すると制限時限のタイマーがストップし、審査チームによる採点がその場で行われる。0・1・2の三つの評価ボタンがあり、これらを審査チーム2人が各々押すことで個別点と合計点が回答チームに表示される。全試合を終えると総合順位が発表される。
大喜利といったが厳密には『大喜利オンライン』攻略である。面白い回答をしたい、だとか、人を笑わせたいみたいな気持ちはこの攻略においては捨て去るべきである。大喜利が苦手な人間にとっては面白い回答を諦めることが攻略のスタートラインである。それなら大喜利ではないのでは? と思う方は大喜利の形をしたスポーツだと思ってもらっていい。
やってみてわかることだが1分間という時間はとんでもなく短い。タイプ画面もそこそこ不親切で、書ききれずにタイムオーバーすることが何度もあった。一発目は早めにジャブ回答をしてとにかく制限時間を引き延ばすというのが必須テクニックになってくる。
また、0・1・2という三段評価も曲者で、初心者達は永遠に0を出され続けて心をすり減らすことになる。やっていくうちに
0がすべり回答、1がそこそこ面白い回答、2がめちゃくちゃ面白い回答
という基準だとこのゲームは成立しないことがわかってくる。というのも回答者と審査側が入れ替わり立ち替わりで行うので、審査を甘めにすることで自分の回答も甘めに評価して欲しいという暗黙の温情システムが発生してくる。そうなると1は「つまらなくはないけど面白いわけではない回答」という風になってくる。
そう、このゲームは決して2を出せるように頭を捻って天才的な回答を出すゲームではなくどれだけ1点を量産できるかにかかっているゲームなのである。そしてそのためには平均して「つまらなくはないけど面白いわけではない回答」「うまくはあるんだけど、笑えるわけではない回答」を短時間でポンポンと引き出すテクニックが必要になる。
「つまらなくはないけど面白い(=笑える)わけではない回答」とは一体なんなのか。
これは大喜利の回答としてある一定の「コード」に則っているものであろう。言い換えるとある程度の上手さ、技能が認められる回答である。お題や評価システムなどが洗練されている『IPPONグランプリ』は一般的な大喜利イメージを考える上でかなり重要で、大喜利グランプリの問題には一部『IPPONグランプリ』からの盗作が見られる。大喜利回答の基本コードは、『IPPONグランプリ』がベースにあるという前提で話を進めていく(この世には沢山の大喜利コンテンツが存在しそれぞれに特徴があるがこの話は割愛させていただく)。
『IPPONグランプリ』がもたらす大喜利コードとは、秋山・ホリケンラインのエキセントリックなスタイルか、ジュニア・バカリズムラインの「正統回答」の二つであると考えられる(もう一つはすべり笑い、温情の笑いだと思うが割愛)。千原ジュニア、バカリズム、麒麟川島、ハリセンボンはるか、オードリー若林、アンガ田中、博多華丸大吉、ピース又吉、ミルクボーイ駒場、フット岩尾あたりの回答スタイルはストレートかつシンプルで、本選での芸人審査・視聴者層の双方において一定の評価が与えられていると言っていいだろう(もっと言えばバカリズムは回答の引き出しを特に多く持っていて回答しながらその都度調整していくという戦闘特化スタイルを持っているし、秋山、ホリケン、大悟あたりは正統回答がちゃんと身についている前提の強さであることを忘れてはならない、できないと一点特化になってしまい本戦での順位が伸びづらい傾向にある)。
大喜利オンラインの難点は文字だけの回答が求められるため、プレーヤーの“ニン”を出すことが難しいという点で、システム上でも回答チームのどちらが出した答えかは表示されない作りである。キャラクター性に特化したアプローチは使えず、回答の出し方、言い方にフックをつけることも難しい。
そのため尚更「正統回答」をする必要がある。
そして「正統回答」らしい引き出しを確保しておくべきである。
その引き出しとは大きく二つ。「面白いとされがちなワード」と「ずらしの連想ゲーム」である。
例題を出す。
『「あ、この消防士 人を助ける気がないな?」どうしてそう思った?』
これに対して一定の評価が付いた回答は以下である(正統回答の例でありこれがつまらないなどの理由でここまで読んだのにブラウザバックしないで欲しい、傷つくので)。
「ワンオペ」 (評価1+2=3)
「川遊びくらいの軽装をしている」 (評価 1+1=2)
「ワンオペ」は大喜利頻出ワードであり、少ない情報量で状況が説明できる他に、絵面が想像しやすく使いやすいワードである。大喜利頻出ワードにも汎用性があるものとないものがあり、「アンミカ」「いっこく堂」「ミロ」、今だと「BeReal」「Tiktok」などの固有名詞はかなり地雷で避けた方が良い。「ワンオペ」「確定申告」「道徳の成績」「マグロ漁船」など定番で使いやすい大喜利頻出ワードは多数存在していて、使いまくることにあまり躊躇しないこともコツの一つである(ただし、あまりにも1週目の回答だと0がつく)。
「川遊びくらいの軽装」はシンプルなずらしの連想ゲームである。当たり前の回答をまず浮かべて(この場合「服装がしょぼい」)、それに対して捻りを加えてストーリーを作って肉付けするテクニックである。軽い服装→川遊びくらいの軽装というそこまで込み入ってはないがひねりは効いているくらいの温度感の発想が求められる。過度にベタすぎず、ある程度のお笑いの作法に則って瞬発力でずらすという脳の使い方が有用である。
お題によってはもっと複雑なものもあり、どう足掻いても0がつくような問題も大喜利オンラインではよくみられる。
お題
『「お前、昨日と同じ服やん!」なんと言い返す?』
酷い問題であり、文字で回答する以上、セリフ回答は不利である。このような問題は捨て問として流すのが良い。変に駄回答を連発すると面白くない人という雰囲気になり次の問題で不利になるためである。
『ドラキュラは十字架で祓われるがおにぎりだと何が祓える?』
おにぎり(おむすび)は大喜利頻出ワードであり、おにぎりから物事を連想していくのがセオリーであるが、この問題だとおにぎりによってなんらかの不都合が生じるものを連想しなければならない。完璧な答えがないわけではなさそうだが、凡人には難しいというパターンである。1分なら尚更である。こうした問題は数発ジャブをして放置するのが良い(誰もがほぐした赤LARKのような天才的なひらめきを持っているわけではなく、本文は大喜利ができない/苦手という前提で書いている。本当に大喜利ができる人はこんなことを考える必要はない)。
『おを、一文字だけ出してかわいくしてください』
使っていいのが一文字だけであるためかなり制限があり、本当に面白い回答をするためにはセンスが求められる。面白い回答をすることが目的ではないので無難なアプローチを検討すべきではあるが、頻出ワードを使うのが1週目の発想になってしまうため「お」の位置に捻りを入れるなどのテクニックが必要とされる大喜利苦手キラーな問題である。
そうこうして、一週間も経てば平均的に1点を量産できるようになっていき、自分のレベル帯なら一位が取れて当然のようになってきた。
言ってしまえば大喜利オンラインはお笑いではなく、頭脳パズルやコミュニケーション練習に近い。瞬発的にお題に対して面白いとされがちなワードを出すという作業は、下手にモンストやテトリスやshort動画を見ることよりも脳を活性化させる。コミュニケーション型・論理型のルービックキューブである。もっと言えば英会話に近い。大喜利オンラインではいわゆるアスペルガー的な回答をすると即0がつき、強く捻らせたセンス回答も苦戦しがちである(ユーザーのメタ的な回答への忌避感は凄まじくすごい速さで0がつく)。一般的なコミュニケーション能力や提案力こそがものをいい、これは訓練によってある程度矯正することができる。大喜利で滑る人は面白くない人ではなく、大喜利のシステムに慣れていないということなのがわかってくる。
同時に大喜利オンラインをしている時の自分は常に真顔である。正統な回答=滑っていない回答と面白い=笑える回答との間にはとんでもなく大きな溝があり、これには先天的な何かが介入しているとしか言いようがない。トークや生き方が面白いが大喜利が弱い人もいれば、その逆もいる。本当に面白い大喜利は特殊技能としか言いようがない。
ここまで読んでいただいた皆さまには後味の悪いオチであるかもしれないが、おそらく一週間後には大喜利オンラインのアプリを消しているだろう。コミュニケーション規範をスポーツにしている人間は大概にして何の魅力も無く、親密さが深まれば深まるほどテクニックというものは形骸化するのである。